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そこにしかない「家のかたち」

「希少地」とは、狭小地・変形地・崖地など、一般的には“敬遠される”ような土地を指す言葉です。しかし、エグセファームではそうした場所を“唯一無二の可能性を秘めた素材”と捉えています。希少地に建てるからこそ得られる副産物――それは、建築が完成した時に初めて気づける特別な体験です。

僕の自邸も、まさにそんな希少地に建てられました。

リビングは2階に配置していますが、南側の隣地が高台になっており、視線が遮られるどころか、眼前には鬱蒼と茂る木々が広がっています。まるで1階にいるような落ち着きと、自然の気配を間近に感じる安心感。さらに、バルコニー越しに“もう一つの庭”をつくる計画もある。2階に専用庭があるという発想は、まさにこの希少地だからこそ生まれた副産物なんです。

設計をする時、僕はまず「間取り」から考えます。なぜなら、暮らしの快適さは生活動線の良さから生まれるからです。どれだけ美しい外観でも、中の動線がチグハグであれば意味がありません。まずは内部空間の最適解を描き、そこから“その間取りにふさわしい外観”をつくり込んでいく。それが僕のスタイルです。

ただ、図面を描き始める前には、しばらく“頭の中で寝かせる”時間をつくります。お客様の声を聞き、その暮らしの背景や思いを反芻しながら、日々の中でさまざまな建物や風景を見て、ふとした瞬間に「今回の家にはこれだ」というひらめきが降りてくる。その瞬間まで、無理に形にしようとはしません。

自邸では、和室の落としがけ(下がり壁)を通常よりも大胆に低くデザインし、そこに格子を組み込んだり、和室には珍しいペンダント照明を取り入れたりと、従来の「こうあるべき」という考え方をことごとく手放しました。押し入れの建具も枠を無くし、完全フラットに。

自分の家だからこそ“やりたい放題”に思えるかもしれませんが、これは裏を返せば、「誰かの常識ではなく、自分自身の暮らしに最適化された空間づくり」なのです。

例えば、キッチンとダイニングテーブルを完全にフラットに接続させたことで、調理中にすぐ隣で子どもが宿題をしたり、家族が自然と集まる空間ができました。

階段はスペース効率を考え、螺旋に。細かいところにまで“住むための理由”が詰まっています。

希少地には、常に「制限」がついて回ります。斜面だったり、狭さだったり、変則的な地形だったり――でも、それをマイナスと捉えず、むしろ設計の自由度を広げる“出発点”だと思えば、結果として、誰の家にも似ていない、自分たちだけの家ができるんです。

そして、実際に暮らし始めてから気づくのが、そうした希少地ならではの“嬉しい誤算”。

「囲からの視線が気にならない」「風通しが良い」「陽の入り方が絶妙」―――。

これは設計時点で100%読み切れない部分です。

だからこそ、希少地には「完成してからが本当の驚き」という楽しみがあります。

希少地に家を建てるという選択肢には、不安もあるかもしれません。でも、制約を超えた先にあるのは、「ここでしか得られない暮らし」です。設計図では描き切れない景色、間取りの奥にある家族のストーリー、それらを一つひとつ形にしていくのが、私たちエグセファームの役目です。

代表:牧田久義